琵琶湖いきものイニシアティブ~生物多様性の恵み豊かな社会を未来に引き継ぐために~

琵琶湖いきものイニシアティブ宣誓書
~生物多様性の恵み豊かな社会を未来に引き継ぐための、滋賀県経済人の宣言~

前文

滋賀県が世界に誇るマザーレイク、琵琶湖。その成立は400万年前までさかのぼり、世界有数の古代湖として、多くの命を育んできました。地球上で琵琶湖水系にしかいない固有種は、魚や貝など約60種にもなります。また、「鳰(にお)の海」の名が示すように、鳰(カイツブリ)をはじめとする多くの水鳥が暮らし、冬には6万羽を超える渡り鳥もやってきます。

人々もまた、琵琶湖とそれをむすぶ水と緑のネットワークがもたらす様々な恵み(生態系サービス)によって支えられてきました。湖底からは縄文時代の遺跡がいくつも見つかっています。琵琶湖にそそぐ川のもたらす肥沃な土地には水田がひらかれ、周囲に広がる里山でも、自然と共生する豊かな暮らしが営まれてきたのです。琵琶湖をはじめとする滋賀の豊かな自然の恵みは、生活や文化に溶け込んだ「滋賀らしさ」の源であり、精神・物質両面において、今も私たちのよりどころになっています。

しかし昨今、琵琶湖の姿は大きく変化しています。水質の悪化、外来種の増加、水草の異常繁茂、琵琶湖の水循環の停滞による湖底の低酸素化など、多くの問題が起こっています。かつてはシジミや鯉・鮒などの湖の恵みを得て豊かな食文化が育まれ、ヨシを用いての伝統産業なども盛んでしたが、今や往時の面影はありません。また、湖水浴を楽しむ人も減少し、湖と人々の距離は遠くなってしまいました。

世界各地で今、人間社会と生態系の不調和による課題が噴出しています。「琵琶湖は地球規模での大きな環境変化が現れる予兆を映し出す小さな窓」という嘉田由紀子知事の言葉が示すように、今、琵琶湖で生じている現象は、世界の環境問題を象徴しているといえます。地球の歴史に比べればあまりに短期間に急激に噴出したこれらの問題に対処し、持続可能な社会を実現するための取組みが強く求められているのです。

生物多様性を保全するための国際的な約束である「生物多様性条約」を日本は1993年に締約しました。2006年にブラジルで開催された第8回締約国会議では、生物多様性の保全へ企業の参画を促す決議が採択されました。琵琶湖を取り巻く滋賀の地で事業を営む者として自然の恵みを切実に感じる私たちは、単にこうした国際的な潮流に対応するだけではなく、琵琶湖から世界に新しい枠組みを提言したいと思います。

すなわち。私たちは、あらゆる企業活動の基盤であり、恵みの源泉でもある生物多様性を率先して保全するのはもちろんのこと、生物多様性がもたらすさまざまな資源やサービスを持続可能な形で活用した企業活動にシフトし、さらに一歩踏み出して、生物多様性の保全に貢献し得るビジネスの新しい仕組みを作り出すことが経済人としての使命であると考えます。そして、社会の変化とともに失われた人と自然のかかわりを甦らせ、滋賀県が「環境の聖地」として多くの人に愛されるよう、人と自然が共生する持続可能な社会の実現に向けて、企業活動を通した生物多様性の保全のモデルを構築していきます。

宣言文

私たちは、私たちの生活と経済が、豊かな自然の上に成り立つことを知っています。琵琶湖を中心とする滋賀の豊かな生態系とその恵みに支えられてきた私たちは、それを保全することが生活と経済を持続するための鍵であり、企業はその責務を負っていると考えます。「生物多様性保全」を重要な経営課題と捉え、経営者自らが先頭に立ち、以下、10項目の活動を展開していくことを宣言いたします。

  1. 生物多様性の保全における国際的な合意である生物多様性条約の3つの目的(生物多様性の保全、生物多様性の構成要素の持続可能な利用、遺伝資源から生じる利益の公正・公平な配分)を支持し、これに従った企業活動を行います。
  2. 企業活動を行うにあたって人と生き物の命を第一に考え、生活と生き物の両方のにぎわいが感じられる滋賀を目指します。
  3. 最低1種類、もしくは1か所の生息地の保全に責任を持ちます。
  4. 滋賀固有の自然を保全するために、滋賀県内への新たな外来種の侵入や、増加を防ぎます。
  5. 滋賀県内に森、里山、川、湖のネットワークを再生し、豊かな自然環境を創出できるよう支援します。
  6. 第一次産業が生活とすべての産業の基礎であることを認識し、持続可能な農業、林業、水産業を、すべての企業で支援します。特に農業は、原則有機農業になるよう支援します。
  7. その他、なるべく琵琶湖の集水域において、必要な資源が循環することを目指し、地産地消を推奨します。
  8. 生物多様性と地域生態系の保全に貢献し得る新規ビジネスの創造に努めます。
  9. 生物多様性の保全に関する考え方をお取引先や市民への啓発活動などを通じて広め、滋賀の生物多様性保全に地域全体で協働して貢献します。
  10. 以上の項目の実現に向け、具体的な計画を立て、行動します。

以上

2009年4月24日

滋賀経済同友会
代表幹事 尾賀康裕
代表幹事 河本英典

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